名門校に入ることの意味を考える——経済学者の成田悠輔氏が教えてくれること

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「できるだけ名前の知られた学校に行かせたい」——そんな気持ちは、多くの親にとって自然なことです。
でも、本当に大切なのは「どこに入るか」ではなく、入ってからどう学ぶかかもしれません。

アメリカ・シカゴで行われた実証研究があります。経済学者の成田悠輔さんが、ノーベル経済学賞のJ. アングリストさん達と発表した論文は、
「名門高校に入った生徒」と「あと少しで届かなかった生徒」を公平に比べました。結果、名門校に入ることによる平均的な学力の上積みは見られないと報告されています。


どんな仕組みで「公平な比較」ができたのか

シカゴの選抜高校は、成績(30%)と、地域の条件(70%:4つのティアに分けて均等配分)で合格が決まります。

このため、合格ラインの“少し上”と“少し下”の生徒では、進学先がほぼ「運の違い」だけで分かれます。
だからこそ、「名門校に入ること」が学力に与える影響を因果的に比べやすいのです。


結論:名門校でも平均的な上積みは見られず

研究は、高2のPLAN、高3のACTという標準テストの点数を追いました。
その結果、数学・読解ともに、名門校に入ったことで点数が大きく上がる傾向は確認されませんでした

つまり、「名門校に行けば自然と学力が伸びる」という考えは、このデータでは支持されなかったのです。
ボストンやニューヨークの選抜高校でも、似た結論が出ています。


親が学ぶべきこと:「学校名」よりも「学び方」

「どの学校に入るか」より、「入ってからどう学ぶか」。

毎日の学習計画、家庭での環境づくり、学習習慣の継続。こうした“入学後の支え”への投資は、
少なくとも学力テストの観点ではリターンが見込みやすいのかもしれません。
私たちが見るべきは「名門校ブランド」と成果の見かけの相関ではなく、学びの質(因果)です。


注意しておきたいポイント

  • この研究が測ったのは合格ライン近辺の生徒の局所的な効果(LATE)です。トップ層や大きく下の層にそのまま当てはめることはできません。
  • 追跡したのは学力テストの点数です。年収や幸福度など長期指標は、別の研究での確認が必要です。

研究が信頼できる理由

AER P&P掲載共著:J. Angrist ほかデータ公開

世界トップ級の経済学誌に掲載され、レプリケーション(再現)用データも公開されています。手法が透明で、第三者が検証しやすい点が評価されています。


出典

  • Abdulkadiroğlu, Angrist, Narita, Pathak, Zarate (2017)
    論文名: “Regression Discontinuity in Serial Dictatorship: Achievement Effects at Chicago’s Exam Schools”
    出典: American Economic Review: Papers & Proceedings, Vol. 107(5), pp. 240–245
    DOI: 10.1257/aer.p20171111
    出版社: American Economic Association
  • Abdulkadiroğlu, Angrist, Pathak (2014)
    論文名: “The Elite Illusion: Achievement Effects at Boston and New York Exam Schools”
    出典: Econometrica, Vol. 82(1), 2014, pp. 137–196
    DOI: 10.3982/ECTA10266
    出版社: Wiley / Econometric Society
  • Chicago Public Schools:Selective Enrollment の制度
    公式資料: Chicago Public Schools “GoCPS High School Selections & Offers”
    URL: https://www.cps.edu/gocps/high-school/results/selective-enrollment/
  • openICPSR:Chicago Study のレプリケーションデータ
    データ名: “Replication data for: Regression Discontinuity in Serial Dictatorship: Achievement Effects at Chicago’s Exam Schools”
    プロジェクトURL: https://www.openicpsr.org/openicpsr/project/113531/version/V1/view
    配布元: Inter-university Consortium for Political and Social Research (ICPSR)
    公開日: 2019年10月12日
    作成者: Atila Abdulkadiroğlu, Joshua D. Angrist, Yusuke Narita, Parag A. Pathak, Roman A. Zarate
    DOI: 10.3886/E113531V1

まとめ:結果よりも「時間の意味」を育てる

この研究は「名門校に入る価値がない」と言っているわけではありません。
むしろ、入った後の時間をどう使うかに目を向けることの大切さを示しています。

教育は“投資”ではなく“伴走”。結果だけでなく、過ごす時間の意味を一緒に育てていく。

受験や進学を、親子の長い学びの旅として捉え直す。
それが、この研究と響き合う家庭の教育観だといえるでしょう。

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